村上春樹『1Q84』

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1


普段とはどこかが少し違った世界にいつの間にか放り込まれていた、二人の邂逅の物語。
少し違った世界で、二人はいろいろなことが少しだけ違っていることに気づきながらも、その世界を否定しようとはしない。
その世界を受け入れることが、再び二人のラインが交わるために必要なことだと理解しているからだ。


人は一生のうちで数限りなく出会いを積み重ねていく。
積み重ねられた出会いは濃淡織り交ざっていて、路上ですれ違うだけの人もいれば、学校なり職場なり日常生活を送るコミュニティの中で毎日のように顔を合わせる人もいる。
その中でごくたまに、生活の大部分を共にする伴侶となる人もいる。
そんな風に数限りなく積み重ねられる出会いの中で、ただひとつだけ、特別な意味を見出せるものがあるかもしれない。でも多くの人はその出会いに特別な意味があることに、長いこと気づけない。
だから、少し違った世界を同じ目線で眺められる人との出会いがあったことに気づけるというのは、とても幸運なことだと思う。


僕らが住んでいるこの世界は、実は大いなる何かが操っている壮大なシミュレーションなのかもしれない。
あるいは違う世界にいる誰かが著した物語の一部に過ぎないのかもしれない。
そうすると僕らが幸運と考えていることは全て単なるシナリオ通りに過ぎなくて、それを幸運と感じたりする感性も、巧妙に設計されたプログラムの演算結果ということになるのだろう。
そんな不条理な世界であっても、僕らは僕らの世界のルールを拠り所にして生きなくてはならないのだ。


現実にもファンタジーにも、それほど大きな境目はないのかもしれない。そこにあるものを現実として認識し、受け入れられなければ、全ては虚構の範疇でしかないのだから。