村上春樹『1Q84』再

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2


言葉というものは表現形態としてはいささか不十分だ。
多くの物事は、言葉にすると何かが足りなかったりずれていたりするもので、言葉だけでこの世の全てを表現することは到底不可能なように思える。
言葉というのが、人と人とのコミュニケーションを効率的で画一的なものにするための道具として発達してきたからなのだろう。
だから言葉を紡ぎ出す者は常に努力をしなくてはならない。
紡ぎ手自身を取り囲む世界をどうやって解きほぐし、誰に、あるいは何に対してどういう目的を持ってどのようにして発信するか、あらゆる角度から考察しながら言葉を選び、発し、文章という形に落としていくことだ。


天吾は小説を書く。
その行為には打算も計算も野望も感じられない。
彼は彼自身を取り巻く世界を心から信じている。その世界を分析し文章として表現することこそが、彼の人生を規程し、生きるよすがとなることをも信じている。
そんな解釈をしてもいいのかもしれない。