百田尚樹『永遠の0』

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)


主人公の青年とその姉がふとしたきっかけから自分達の本当の祖父の人となりと生涯を明らかにするため、祖父と関わりのあった人々を訪ね回るという物語。祖父は戦時中に特攻で亡くなったという。関係者達の話聞く内に、朧げなイメージしかなかった祖父の人となりが徐々に形作られ、その峻烈な生き様が明らかになっていく。
現代を舞台とした主人公姉弟の話がベースとして語られ、その合間に関係者の回想が挿し込まれるという構成。とはいえ回想は重厚に作りこまれていて、現代のストーリーと密に絡み合って重層的な世界を作り出している。


現代の姉弟の話は人物描写も薄くストーリーも陳腐と言えば陳腐なのであるが、戦時中の回想シーンとのバランス感覚が絶妙。
イデオロギー的な主張は少なく、常軌を逸した戦術を取り続ける無能な軍部に対する憤りや特攻兵の無念といった感情表現と同時に、空戦のシーンなど男子の本能を刺激する描写も豊富で、それらが綯い交ぜになって一気に読み上げることのできるエンターテイメント風な作品に仕上がっている。